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ピー・アンド・イー・ディレクションズ

2020.04.26
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いまさら聞けないサブスクリプション(COALA net - vol 5, 2019年秋号より)

COALA net『いまさら聞けない』シリーズ第2回。今回はモノの利用権を一定期間提供して利用料を得るサブスクリプション方式について解説しています

――サブスクリプションの導入事例は増えていますか。

サブスクリプションといえば、『スポティファイ(Spotify)』や『ネットフリックス(Netflix)』といった音楽や映画の配信サービスを思い浮かべる方が多いでしょうが、最近はアパレルや車メーカーなども活用しています。カジュアル衣料大手のストライプ・インターナショナルは定額制サービス『メチャカリ』を展開していますし、トヨタも『プリウス』や『レクサス』に乗れる定額制のサービスを提供しています。
矢野経済研究所は、2018年度5627億円だった国内のサブスクリプション市場が23年度には8624億円へ拡大すると予測しています。今後はIT企業やベンチャー企業だけでなく、一般の企業もサブスクリプションを活用するようになるでしょう。

――サブスクリプションはリースと何が違うのですか。

リースとは異なります。確かに、モノの所有権が企業から利用者へ移転しない点と長期に亘って利益を回収する点は共通していますが、提供物の確定と継続の拘束力の2点で異なります。
リースでは、原則契約期間中に提供物が変わることはありません。車をリースした場合、契約期間が終わるまでは同じ車のはずです。しかし、サブスクリプションの場合は、提供物が変わる可能性があります。スポティファイには新しい曲が追加されますが、月額料金は変わりません。
また、リースは継続に対する拘束力が法的に守られています。利用者は契約期間内に総額を払う契約を交わさなければなりませんが、サブスクリプションでは一定の縛りが設けられる場合もありますが、基本的に解約は利用者の自由です。企業にとってはリースの方が安心ですが、利用者にとってはサブスクリプションの方が敷居は低いのです。

――なぜサブスクリプションが流行っているのですか。

企業にとって魅力的な課金モデルだからです。毎月安定して一定の収益が得られるため、売上の見通しや投資計画が立てやすくなります。目先の売上を立てなければならないフロー型のビジネスと比べ、長期で安定するストック型のビジネスになるので経営者としては安心です。
また、消費動向もモノの所有から利用へ移行しつつあります。サブスクリプションは従来の売切りに代わるモデルになり得るのです。
ただ、サブスクリプションを単なる課金モデルとしか捉えられないと、本質を掴むことができないでしょう。必要な視点は、顧客とのつながりです。
というのも、売切りにおいては、企業はモノを販売した時点がゴールです。販売後のアフターサービスを提供する企業もありますが、企業にとってはコストでしかなく、販売前よりも力を入れません。しかし、サブスクリプションでは、契約がゴールではなく、むしろ契約後にいかに長く利用してもらうかが勝負です。企業は絶え間なくアップデートや商品の拡充に努め、顧客の困りごとを解決するようなサービスを提供することによって解約を防ぐよう努力しなければなりません。
つまり、メーカーがサブスクリプションを始める場合は、従来の製品重視から、顧客とのつながりを重視したビジネスへ転換する必要があります。これは視点を変えれば、顧客とのつながりを維持することで、売切りにはない成長性を秘めているとも言えます。顧客とつながると顧客から直接、大量のデータを収集できます。そこから顧客の好みや消費行動を分析すれば、新たな需要を生み出すことができます。卸や小売を経由して顧客に商品を届けていたメーカーが顧客と直接つながりを持つことで、新しい商品を開発できるようになるかもしれないのです。

――サブスクリプションを利用するうえでの留意点は何でしょうか。

まず短期的な業績への影響です。売切りに比べ収益の確定が長期化するため、短期的に収益は減少します。また製品の所有権を利用者に移転しないため、製品は自社の資産として持つことになり、バランスシートが膨らんでしまいます。
次に、企業内部での競合です。サブスクリプション方式の新規事業を立ち上げると、従来の顧客がサブスクリプションへ移行し、既存事業の需要を侵食してしまう可能性があります。既存事業の担当者が新規事業を攻撃するようなケースが起こりかねません。
最後に、顧客中心の事業モデルへの転換が挙げられます。特に売切り型の事業モデルを実施してきたメーカーは、製品の販売だけではなく、アフターフォローや継続的なバージョンアップ、サービス強化など、販売後の顧客とのつながりを維持するための事業へ転換する必要があります。事業全体を最適化していかなければなりません。

――では、サブスクリプションの利用における成功の秘訣はありますか。

3つの方向性で進めるとよいでしょう。
第一に、ゼロベースでサブスクリプションの新規事業モデルを構築することです。大胆なバリューチェーンの組み直しや人員の配置換えなども含めて、顧客とのつながりを維持するために必要な機能や組織、管理などをゼロから検討するのです。既存事業の成功体験にとらわれていない若手の抜擢や外部人材の登用などが有効かもしれません。
第二に、経営者によるコミットです。サブスクリプションに取り組む担当者やチームが既存事業から攻撃を受けないよう、経営者が守り、取り組みの本気度を示す必要があります。子会社など別の組織を設け、隔離するようなことも選択肢のひとつでしょう。
第三に、メリハリです。新規事業としてサブスクリプションに取り組む担当者は事業の構築に集中しなければなりません。ノウハウがない場合は、コンサルタントなどの外部の専門家の力を借りたり、ビープラッツのようなサブスクリプションに必要な機能をプラットフォームで提供してくれる企業に任せたりして、新規事業の構築に専念することです。
完全自前主義から脱却し、スピーディで柔軟性のあるオープン型のサブスクリプション・チームが組成できれば、成功率は大きく上がるはずです。

解説: 伊藤祐介(マネージャー)

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