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ピー・アンド・イー・ディレクションズ

2020.11.17
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いまさら聞けない 6次産業化(COALA net - vol 7, 2020年夏号より)

当社コンサルタントによる『いまさら聞けない』シリーズ。今回は、農林水産業の活性化に寄与する6次産業化について解説しています。

―― 6次産業化とはどのような取り組みでしょうか。

6次産業化とは、1次産業の農林水産業と2次産業の加工業、さらに3次産業の小売業や飲食業を融合して、新しい価値を生み出す取り組みです。6次産業の6次には、1次と2次と3次を掛け合わせるという意味があります。

6次産業化は、農林水産業者が生産物を加工し、消費者に小売りする川下への展開と、小売業者や飲食業者が加工業や農林水産業へ参入する川上への展開に大別されます。背景には、基幹産業である農林水産業の衰退があります。農林水産物の価値を高め、生産者の収益向上と産業の活性化を図る目的で6次産業化が推進されてきたのです。

――具体的な成功事例を紹介してください。

香川県小豆島のオリーブ農家である井上誠耕園は、栽培したオリーブでオリーブオイルや化粧品を生産し、店舗販売や通信販売を手掛けつつ、オリーブオイルを使った料理を提供する飲食店まで経営しています。これらの展開によって、通常1gあたり2〜3円のオリーブオイルを同7〜10円で販売し、収益性を高めることに成功したのです。

井上誠耕園は、新聞広告などを活用して都会に住む健康意識の高いシニアの女性層を中心に認知されたのですが、ブランディングが功を奏したように思います。生産者の顔を見せて、数量に限りがあるものの、原料にこだわる姿勢を表現し、安心、安全、高品質、希少性を消費者に訴求したのです。

いまや小豆島は国内有数のオリーブ産地として知られるようになり、オリーブ園の体験を売りにした旅行プランまであります。井上誠耕園の成功は小豆島の活性化に貢献しているのです。

――川上へ展開した事例はありますか。

飲食業や小売業から農業への展開は最近増えていますが、なかでも飲食店を運営するイートウォークの事例は挙げておくべきでしょう。同社は野菜にこだわり、全国各地の農家から直接仕入れた野菜を、新鮮さや季節感、新体験などの付加価値とともに飲食店で提供することによって多くの顧客を獲得しました。

こうした飲食店と農家の直接取引は増えていますが、以前は限定的でした。というのも、飲食店が長期に亘って安定して農作物を購入し続けてくれるかどうか、農家が懐疑的だったのです。飲食店は農家と膝詰めで交渉し、価値観を共有しなければならず、直接仕入れはハードルが高かったのです。

そんななか、イートウォークは、全国各地の観光協会やJA(農業協同組合)、自治体と連携し、各地で食材を発掘するイベントを開催しました。飲食店の購買担当者は現地で農家と意思疎通が図れますし、農家は新たな卸先を開拓できます。農家にメリットがあるので、徐々に口コミで広がり、多くの農家がイベントに参加するようになりました。飲食店も、様々な地方の食材を季節のメニューとして提供できるようになり、店舗の付加価値が高まりました。その結果、生産者から消費者まで一気通貫の食材の提供が実現したのです。

――6次産業化を成功させる秘訣とは何でしょうか。

川上への展開であれば、農家や自治体との関係構築が鍵でしょう。飲食店や小売業者のなかには、農業への新規参入を試みるところもありますが、参入しやすくなったとはいえ、様々な規制やハードルがあって容易には進められません。ただ、農家との信頼関係が深まれば、たとえば、後継者不足に悩む農家が営農の継続を断念し、飲食店や小売業者に農地を貸そうという考えに至る場合もあるでしょう。

さらには、ブランディングです。農家から直接仕入れているという特徴を、たとえば生産者の顔が見える点を顧客に訴求するなど、店舗でうまく表現する必要があります。いい食材を仕入れているのだから美味しいに決まっているといったある種の驕りになってはマイナスです。価値を理解してもらえるように表現を工夫して顧客の獲得につなげていくことが肝要です。

――川下展開における成功のポイントはありますか。

やはりマーケティングでしょう。一般に生産者は、ものづくりに長けていますが、農産物が誰の手に渡りどのように使われているか、踏み込んで考える方は少ないように思います。井上誠耕園の例からも明らかなように、作ったものをどのように加工して誰に販売すれば、評価してもらえるのか、考え抜いて工夫することが重要なのです。

そうすると、農作物を加工して付加価値を高める方向にいくのでしょう。とくに生鮮野菜の場合は、完全無農薬野菜であるとか、品種がユニークであるといった何かしらの特徴がない限り、差別化を図ることは難しいのです。

ともあれ、規模の小さい零細農家には余裕がありません。現実的には、マーケティングや6次産業化は難しく、それが日本の農業の本質的な課題であるように思います。やはり一定規模の企業体で農業を進めていかざるを得ないのではないでしょうか。そして後継者問題も絡めて課題解決を進めていけば、6次産業化という新しい取り組みも促進されるように思います。

解説:木部 賢二(ディレクター)

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