- 2020.06.10
- RESEARCH/CONTENTS
医療サービスの患者体験に関するアンケート
ピー・アンド・イー・ディレクションズでは、2020年3月上旬に病院・クリニックにおける体験に関するアンケート調査を行った。
図表1は2020(令和2)年3月に50代以上の生活者500人を対象に行ったアンケート結果であり、また、図表2は図表1と同様のアンケートを2010年3月に実施した結果である。職種(医師/看護師・スタッフ)や内容によって項目を分け、「感動した体験」、「嫌な思いをした体験」を集計した。
図表1をみてみると、病院・クリニックにおいて感動した体験として「効果の高い治療、信頼できる診断結果」を挙げる人が39件と最も多いが、次いで「治療内容、症状に関する詳細説明」を挙げる人が30件と多い。また、「医師の丁寧/親身な診察」「医師の優しい言葉遣い・気遣い、患者フォロー」「看護師スタッフの適切な処置・親切な対応」を合わせると83件であった。逆に嫌な思いをした体験をみると、病院オペレーションである「長い待ち時間」の件数が最も高く103件となっており、アンケートに回答した方のうち、実に5人に1人は待ち時間に関する嫌な思いをしていることが判る。この件数は病院の中心的な存在である医師に関連する経験全体に匹敵する件数であり、医療サービスにおいて大きな不満を占めることを示唆する。また、医師に関連する経験の中では、医師の態度や言葉遣いの件数(66件)が多く、医療のコア機能に対する嫌な思い「誤診・不十分な処置」の件数(24件)を大幅に上回っている。
以上の結果は中核的な機能である治療そのものの良し悪しに加えて、治療に至るまでのプロセスや患者に対する医師・看護師等の接し方という副次的な機能も患者にとっては重要な要素であることを示唆している。このような傾向は、10年前の調査(図表2)においても同様であったことが窺える。
それらの患者の具体的な声を聞いてみると、たとえば病院・クリニックで感動した体験では、「腎臓移植後の通院期間中に精神的に落ち込んだ際に『疲れた』ことを医師に伝えると『予約に関係なくいつでも来なさい』と言ってもらえて心の支えになった。(57歳・女性)」「手術後のフォローがとても良かった。退院後、翌日に電話があり体調を聞いてくれたのが嬉しかった。(62歳・男性)」というコメントがあった。他方、病院・クリニックで嫌な思いをした体験を見ると、「医師から抗がん剤使用を強く勧められたが、副作用が心配で躊躇していると投げやりの言い方をされた。(72歳・男性)」「ある病院の夜間診療に行った際、担当医師が症状は聞くがわたしの顔を全く見ず、パソコンばかり見て診察されたこと。(54歳・女性)」などまったく対照的なコメントがあがる。
このように正反対の現象が同じ医療サービスの世界に起こってしまう理由として、医療サービス提供者側の発想の起点の違いが考えられるのではないだろうか。患者側に起点を置いて発想すると感動体験のコメントが表すような現象につながる一方、起点を医療サービス側に置くと嫌な体験コメントにあるような現象につながってしまう。後者はいわゆる提供者の論理(サプライヤー・ロジック)であり、一般的には専門家集団であればあるほどその考え方が強まる傾向にある。医療サービスは専門性の高さゆえ、サプライヤーロジックに陥りやすいものと考えられる。それゆえ、多くの患者が顧客起点のサービスを欲しているこのことがアンケートにも表れていると言えるだろう。
コロナ禍や2025年問題に直面している現在の日本において、オンライン診療や地域包括ケアを始めとして医療サービス提供のあり方そのものが問われている。このような難しい局面であるからこそ、医療機関やヘルスケア企業は今一度改めて患者(顧客)目線での医療サービスの価値や利便性、待ち時間も含めたコスト、コミュニケーションのあり方を見つめ直す必要があるのはないだろうか。
執筆者:山田 修平(マネージャー)