セミナー紹介

セミナー 2017.11.09

~イノベーションセミナーシリーズ第2弾~

「顧客組み込み型イノベーション」セミナー

世界のトップ企業・成長企業が共通して実践し始めている、顧客と並走し巻き込みながら提供価値を創造する“顧客組み込み型イノベーション”という考え方がある。
世界規模の目まぐるしい事業環境の変化を背景に、自社資源によって創出した価値を一方通行で提供するのではなく、社外の資源である顧客をいかに活用し価値を創出していくかが、今後の新規事業の立ち上げ・既存事業の革新において重要な要素となってきている。
本セミナーでは、「価値共創の専門家」、「価値共創の成功事例であるネスカフェアンバサダーの立役者」、「もの・こと・ひとづくりを提唱するイノベーションの権威」の3名のゲストスピーカーを迎え、“未来の価値づくりの考え方“と”実現に向けた方法”を解説いただいた。

【本セミナーのエッセンス】

第1部:「価値づくり」の未来
~なぜ顧客組み込み型イノベーションが今求められているのか?~

  • 世界規模の変化を背景に起きている“価値づくり”の考え方の進化と世界トップ企業の“価値づくり”の実例を解説
  • 講演者:一橋大学大学院国際企業戦略研究科 准教授 藤川 佳則(ふじかわ よしのり)氏

第2部:ネスカフェアンバサダー
~どのように顧客を事業に組み込むか?事業を立ち上げるか?~

  • ネスカフェアンバサダーの立ち上げ秘話・立ち上げる際の秘訣、現場担当者ならではの実例を通じた顧客との価値づくりの実践方法や仕組みを解説
  • 講演者:ネスレ日本 Eコマース本部 ダイレクト&デジタル事業推進本部 部長 津田 匡保 (つだ まさやす)氏

第3部:パネルディスカッション
~「私たちはどのように”顧客組み込み型イノベーション”を実現するのか?」~

  • 講演者の方々には、1部・2部の講演内容からより深く踏み込んだ解説や、他のイノベーション理論とのつながり、多数の他業界での実例のご紹介を頂いた。実際にセミナーご参加者が自社で実現するために考えるべきポイントを整理しながら議論していくことで、ご参加者の皆様、我々の一層の理解促進につながった。
  • 講演者:1部・2部講演者+東京理科大学大学院イノベーション研究科 教授 田中芳夫(たなか よしお)氏+当社代表取締役 島田 直樹 (モデレーター:当社取締役 長谷川)

第一部
「価値づくり」の未来~
なぜ顧客組み込み型イノベーションが今求められているのか?~

【講師紹介】藤川 佳則 氏
(ふじかわ よしのり)氏
・一橋大学大学院国際企業戦略研究科 准教授
・一橋大学経済学部卒業。同大学院商学研究科修士。ハーバード・ビジネススクールMBA(経営学修士)、ペンシルバニア州立大学Ph.D.(経営学博士)。ハーバード・ビジネススクール研究助手、ペンシルバニア州立大学講師、一橋大学大学院国際企業戦略研究科 専任講師を経て現職。
・専門はサービス・マネジメント、マーケティング、消費者行動論であり、経済産業省など各省庁の委員、リクルートやアドビシステムズで顧問を務める

交換価値の時代から使用価値の時代へ

藤川氏から、初めに顧客組み込み型イノベーションが求められている背景をご説明いただいた。同氏は地球規模で数十年単位で起きている3つの変化を提唱する。

– SHIFT :世界経済はサービス化へ

  • 世界経済に占めるサービス業の割合が上昇しており、一国も例外がない。

– MELT :産業の垣根はあいまいに。

  • 製造業のサービス化、サービス業のモノ化に伴い、業種や産業の定義があいまいになりつつある。

– TILT :未来は北緯31度の北から南へ

  • 今後の世界経済の重心が、北半球の先進国ではなく、南半球の新興国に移りつつある。

世界経済がモノからサービスに“SHIFT”し、あらゆる産業が“MELT”してきたことで、生き残るためにはサービス中心に価値づくりを再定義する必要性が高まっている。また、その競争相手や主要市場は“TILT“しており、従来の先進国だけでなく、南側の新興国の企業や市場を通じた価値づくりが拡がってきている。

このような変化を受け、ただモノの価値の対価を受け取る“交換価値“の時代から、顧客と共に“使用価値”を創る“価値共創”の時代へ移行しているという。これまでのモノづくり中心の経済であれば、交換価値を最大化することを目的としたバリューチェーンの構築が重要であった。モノの価値をいかに高めていかに高く買ってもらうか、大量仕入れ・大量生産の仕組みを作り、いかにコストを削減するか、というような考え方である。一方、今後のサービス中心の経済では、販売時に完結する価値よりも、顧客がその製品やサービスを継続的に使用することで高まっていく“使用価値”が重要となってくる。例えば近年のSNSをみると、ユーザーには”使用価値“を基本的に無料で提供する一方、積み上がったユーザー数・情報を広告主に対して提供し、その対価を得るような仕組みが増えている。このように顧客を価値共創のパートナーとして組み込んだ価値づくりが今後重要な考え方となる。また、その価値づくりのプロセスに複数の異なるサイドの顧客を組み込んでいくことで、その事業の価値がネットワーク効果のように高まり、競争優位性の高い事業の創造が可能となると藤川氏は語る。

顧客との価値共創事例

藤川氏から実際の企業における価値共創の事例を多数ご紹介いただいた。中でも、ブロック玩具LEGOの新規事業である「LEGO IDEAS」は画期的な価値共創事例であった。

LEGO IDEASは、世界中に4億人いるLEGOユーザーが自身の作品をアップし、お互いに投票し合うことが可能なWebプラットフォームである。そして、作品への投票が1万票に到達すると、商品開発会議に進み、そこで採用され商品化されると、作品の考案者にその商品の売上の1%が還元されるという仕組みとなっている。これにより、それまで150人のデザイナーで行っていた商品開発体制が、顧客のアイデアを利用することで4億人体制になったと捉えることもできる。まさに顧客の資源を活用し価値づくりに組み込んだ価値共創の事例といえる。

顧客組み込み型イノベーションのKFS

最後に、藤川氏は顧客組み込み型イノベーションの成功のカギとなる要素は次の3つであると述べている。組織外の余剰資源、事後創発プロセス、デジタル世代の発想の3つである。

第二部
ネスカフェアンバサダー
~どのように顧客を事業に組み込むか?事業を立ち上げるか?~

【講師紹介】津田 匡保 氏
(つだ まさやす)氏
・ネスレ日本 Eコマース本部 ダイレクト&デジタル事業推進本部 部長。
・京都大学農学部を卒業し、ネスレ日本株式会社に入社。中国地方の営業を経て、「ネスカフェバリスタ」のマーケティングを担当。
ネスカフェアンバサダープログラムの立上げに携わり、4年で30万人のアンバサダーを獲得し「ネスカフェバリスタ」の普及に貢献。
・日本マーケティング大賞を受賞し、各種メディアへの出演実績がある

ネスカフェアンバサダー誕生の秘話

津田氏は、初めにネスカフェアンバサダーが誕生した経緯を語った。ルーツは、東日本大震災の際に仮設住宅地にバリスタマシンを設置し、コーヒーを提供した活動だという。バリスタマシンを設置した集会所には、世代を問わず多くの方々が集まり、あたたかいコーヒーを飲みながら楽しく談笑する笑顔が一日中続いたと語る。集会所が一つの“カフェ”のように賑やかになったことを通じて、バリスタマシンは手軽にコーヒーがサーブできる機能だけでなく、一つのコミュニティ創出の価値があると実感したという。

【ネスカフェアンバサダーのモデル】

顧客組み込み型イノベーションの秘訣は小さくスタートすること

コミュニティ活性化を提供する先として、企業内での設置を考案したが、最初はどの程度ニーズがあるものか判断がつかなかったと語る。そこでまずは職場のコミュニティ活性化のためにバリスタマシンを設置したい人を50名程度募集するところからスタートした。結果的に1週間で1,000名のユーザーから希望があり、ニーズを実感したという。

顧客を組み込む新規事業の立ち上げの際は、小さくスタートすることが最も大切であると津田氏は強調した。“進めるうちにわかってくること“の方が圧倒的に多く、今でも当時のテストユーザー50名の方の声はデスクの引き出しに保存しているという。また、同時に小規模でもスタートすることが重要であり、まずはやってみて仮説を検証するというプロセスが重要であると解説した。

様々な接点で顧客の本当に求めているものを聞き出しアクションにつなげる

津田氏は、藤川氏の講演にもあったように“事後創発プロセス”の重要性を説く。顧客を活用して価値を作っている事業において、顧客の声はアクションに繋がる最も重要な要素となる。ネスカフェアンバサダーでは、顧客の本当に求めているものを聞き出せるタッチポイントを多く設計することで、アクションにつなげる仕組みを構築している。顧客の声から得たヒントをいかに柔軟に事業に組み込んでいけるか、ということが顧客組み込み型イノベーション成功の鍵であると考えられる。

第三部
パネルディスカッション
~「私たちはどのように”顧客組み込み型イノベーション”を実現するのか?」~

田中芳夫 氏
(たなか よしお)氏
・東京理科大学大学院イノベーション研究科 教授
・東京理科大学工学部電気工学科卒業後、住友重機械工業、日本IBM、IBM Corporation、マイクロソフトを経て、現職
・国立研究開発法人 産業技術総合研究所 参与、青山学院大学大学院ビジネス法務客員教授、国際大学GLOCOM 上席客員研究員、日本工学アカデミー会員なども務める

私たちはどのように”顧客組み込み型イノベーション”を実現するのか?

第3部は、ご講演いただいた藤川氏と津田氏とともに、東京理科大学大学院イノベーション研究科において教授としてご活躍する田中芳夫氏にご参加いただき、弊社代表取締役 島田・弊社取締役 長谷川を加えてのパネルディスカッションを開催した。

津田氏にはネスカフェアンバサダーの今後の展望をお話しいただき、藤川氏にはご講演の内容よりもさらに踏み込んだ価値共創の理論をお話しいただいた。田中氏には他業界で生み出されている顧客組み込み型イノベーションの事例を多数ご紹介いただき、また、同氏のご知見から近年の“コト消費“や”エコシステム”などの考え方との関わりをご提示いただくことで、議論をより活発なものとしていただいた。

議論を通じての顧客組み込み型イノベーション実現のポイントは「顧客を組み込むことで、顧客がいろいろなことを会社に教えてくれる」という考え方である。顧客を組み込むことで、フィードバックを受け、次のアクションにつながり、イノベーションが更に進化するという好循環が生まれるのである。

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