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バタフライ・モデル:中国式の企業成長戦略

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バタフライ・モデル:中国式の企業成長戦略

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バタフライ・モデル:中国式の企業成長戦略

【要約】

現在、企業の経営層は中国の歴史からマネジメントに関する知恵を得ようとしている。しかし事例から得た知識や情報は基本的に全体性を欠いており、部分的なものである。

本論文では中国の歴史体制の分析を通じて組織の成長戦略を研究し、現在の中国企業を成長させるための新しいフレームワークである「バタフライ・モデル」を提示する。

「バタフライ・モデル」は九つの組織成長の要因から構成され、中国企業のリーダーに対して包括的な戦略フレームワークを提供する。

「バタフライ・モデル」は中国の歴史に基づく組織の成長戦略を研究する初めての理論モデルである。

執筆:丁千城

【本文】

バタフライ・モデルは真の戦略モデルであり、9つの中国的な概念を用いて組織成長のプロセスを説明するものである。

リーダーに対しては戦略思想のフレームワークを提供し、組織メンバーに対してはそれぞれの責任、モチベーションを提示する。

バタフライ・モデルはすでに欧米の戦略研究にも影響を及ぼしているが、さらにフレームワークを整理する必要がある。

それによって、バタフライ・モデルは包括的な理論モデルとなる。

バタフライ・モデルは縦方向に見ると三つの列で構成されている。

 

【バタフライ・モデル】

■ 蝶の胴体部分:「天、地、人」

■ 蝶の左翼部分:「術」から「法」へ、そして「道」まで、上へ躍進する「組織成長モデル」

■ 蝶の右翼部分:「時」から「信」へ、そして「資」まで、下へ移動する「戦略策定モデル」

 

■ 蝶の胴体部分:「天、地、人」三要素

この三要素は中国的なナレッジを構成するものであり、中国的成長戦略を説明するフレームワークである。

バタフライ・モデル(一)「天」

(一)「天」

「天」には複数の意味がある。

一つは「天道」であり、最高の「道」である。

天の意味を人と繋げれば「天命」になる。

つまり人は神から命令を受けることで、最も高いレベルの責任感を持つことになる。

たとえば、ローマ法王がニュートンのために書いた「墓碑銘」には「世の中が暗闇に隠れ、

神は『ニュートンをそこに行かせろ』と言い、ニュートンは地球に光をもたらした」と記されており、

ニュートンの業績をたたえた。

 

中国にも類似の言い方がある。

例えば宋朝のある科学者が「天下生仲尼、万古如長夜」と孔子を賛美した。

孔子は偉大な啓蒙家であり、彼がいなかったら中国の文学は発展していなかったであろう。

 

「天」のもう一つの意味は「天時」である。

天時とは「最も適切なタイミング」という意味であり、タイミングが後ろに延びるほど時間の力は弱くなることを意味する。

時代に適合したビジネスをしなければならないという考えや、最近の「ファッション」という言葉もタイミングと関連している。

欧米には「台風が来たら豚でも飛べる」ということわざがある。

 

つまり、「時間の力を借りることができるのであれば不可能でも可能になる」と言う意味である。

「韓非子」には「非天時、虽十尧不能冬生一穗」、「故得天时则不务而自生」という一節がある。

 

つまり、春に種を撒き、夏に耕し、秋に収穫し、冬に貯蔵するのは基本的なルールであり、

(温室栽培の技術がない昔に)聖人の如ヨウにして冬に稲を成長させることは不可能であった。

 

しかし夏には何もしなくても稲が成長できる。

また、もし中国に「改革開放」がなかったとしたら、張瑞敏、柳伝志たちもいなかったであろう。

中国の計画経済時代にも張瑞敏や柳伝志たちに相当する人物はきっといたはずであるが、

彼らは「天時」に出会わなかったので、世に出現しなかったのである。

バタフライ・モデル(二)「地」

(二)「地」

「地」の本来の意味は大地である。

大地は万物を載せ万物を成長させる。

肥沃な土地もあれば不毛の地もある。

肥沃な土地にいる人は半分の労力で倍の成果をあげる一方、

不毛の地にいる人は倍の労力で半分の成果しかあげられない。

 

「地」は今まで及びこれからも人類が生きて行くための最も重要な資源である。

 

したがって「易経」では、土地が「厚德载物」(大きな度量を持ってすべてのものを受け入れる)と表現し、

最も重要なものと位置付けている。

春秋時代の魏文侯は「李悝の変法(=改革運動)」を採用した。

その中心的な思想は「尽地力之教」、つまり同じ畑に多数の農作物を植えることによって、

その畑のすべての資源を有効に利用するという考え方である。

つまり、田畑の生産効率を高める農業政策である。

 

現代の袁隆平による「搞杂交稻」(種類が違う稲を一つの畑に植え、お互いに補完し、

より高い品質の稲を作ること)も科学分野における革新的な「尽地力之教」と言えるだろう。

「商鞅の変法」は、秦国以外の諸国民を秦国に来させて耕作させることによって国を裕福にする考え方である。

そして秦国民を戦場に行かせることにより、商鞅の変法は秦国を中国史上最初の統一帝国になることを実現させた。

杜佑が編纂した「通典」では、この制度の成果を「数年之间,富国强兵,天下无敌」

(数年の間、国を裕福に、軍事力を強くさせ、秦国を無敵にさせた)と評価している。

 

「地」に関しては「根本之地」(一番重要な拠点)というもう一つ指摘しなければならない概念がある。

これは現代の企業経営に対しても、昔の覇権闘争に対しても同様に重要なことである。

 

紀元195 年、参謀役である荀或が曹操に、山東にある雍州を「根本之地」にしようと薦めた。

荀或は曹操に言った。

 

「昔、高祖(劉邦)が関中(現在の陝西省の中部)を守り、光武帝(劉秀)が河内(今河南省黄河より北の地方)を占領した。

二人とも自分の大事な拠点を確保した上で全国へ戦争を展開した。

順調に前進している時は敵を制御し、後退しなければならない時は拠点を守る。

したがって一時的には失敗しても、最終的には勝利を収めた。

将軍は雍州から一揆を起こし、山東(雍山より東の地方)の動乱を抑えた。

国民たちは今将軍に心から承服している。

さらに、雍州は戦争に勝つための重要な場所であり、関中、河内に相当する。

まずそこを拠点として安定させなければならない。」と。

 

古代の戦争では拠点を持たない軍隊は流賊になったが、

拠点を持つ軍隊は一時期に負けても再び戦うことが可能であった。

 

例えば、劉邦は項羽との戦争に負け続けた時期もあったが、

関中を守ることができたために参謀の簫何は戦争の最前線に食糧や兵士を送り続けることが可能であった。

そのため、劉邦は負けたとしても戦い続けることができ、結果的には中国全土での勝利を収めることになったのである。

バタフライ・モデル(三)最も重要な要素「人」-1 人材

(三)最も重要な要素「人」

銭穆は「もし人と物を中心に据えずに歴史を研究したならば、その研究から得られるものは絶対に価値のあるものではない」と述べている。

バタフライ・モデルでは「人」が中心的な位置にある。

この要素に対する議論は「人材」と「リーダーシップ」の二つに分けられる。

 

1 人材:レベルの高い人材であればあるほど、個別的に処理しなければならなくなる。

 

人材について議論する前に、まず「人間性論」を論じなければならない。

孟子は性善説(人間は善である)を主張したが、荀子は性悪説(人間は悪である)を主張した。

 

人間性というのが善であるか悪であるかということは管理哲学に直接的な影響を与える。

もし性善説に基づくならば、すべての人は英傑であり聖人であるため、

「モチベーションをいかに高めるのか」が管理方法となる。

 

他方、性悪説に基づくならば、人はロウソクであり、火をつけなければ光にならないため、

「罰則をいかに設計するのか」が管理方法となる。

人材に関して、中国でこれまで議論され続けているのが、「才」と「徳」のどちらがより重要かという問題である。

 

司馬光は「資治論鑑」に「才徳兼備」と言う概念を提示し、

「才能は道徳の支えであり、徳は才能の支配者であり、相互に補完し合う」と説明している。

つまり、徳も才も大事4だが、徳はより重要であり、才を支配するものである。

しかし、現実的な人は、司馬光のような学者とは正反対の考え方を持っている。

 

例えば曹操が人を採用する基準は「才能さえあればよく、道徳はいっさい関係ない」だった。

中国史上「才」と「徳」に関して様々な議論がある。

 

そのうち、徳を重視する議論は「女性の才能がないことは道徳である」というものであり、

才を重視する考え方は孟賞君が主張した「賊でも才能があれば採用すべき」というものである。

中国の歴史上の人材を観察すると、

このような曖昧な人間性理論と硬直的な「才と徳の考え方」は一般化することはできない。

 

典型的な例は管仲(齊桓公を春秋時代の初めての覇王にさせる有名な宰相)である。

管仲が歴史に名を残すことになった一つの原因は、彼が幼い頃に出会った親友の鮑叔牙にある。

管仲は自分が道徳、能力、気骨などの面において立派ではないと考えていた。

 

しかし、鮑叔牙はそうは思わなかった。

彼はいつも管仲の貪欲さ、失敗や臆病さなどを客観的に評価して説明していた。

そのため、管仲は「自分のことは両親よりも鮑叔牙の方はよく知っている」と言っている。

管仲と鮑叔牙の事例から導き出されることは、レベルの高い人材であればあるほど、

個別に対応(一般的な人材育成とは異なる育成)しなければならないということである。

 

例えば、柳伝志はレノボ社を二つの会社に分けたとしても楊元慶と郭為には

同時に自分の部下として働いてもらいたいと話している。

柳伝志から見ると、会社にとって一人の優れた人材を失う以上に高いコストはないのである。

バタフライ・モデル(三)最も重要な要素「人」-2 リーダーシップ
2 リーダーシップ: レベルの高いリーダーであればあるほど、そのリーダーは「漢方医」である

バタフライ・モデルにおいてリーダーシップを研究する原理原則は、

歴史上の「偉人(大物)」を分析できなければ、成功者がどういう人間なのか、

「大物」はなぜ「大物」になったかを解明できないということである。

 

中国史上には「偉大な人物」が多数存在する。例えば秦孝公である。

秦孝公は弱冠21 歳で王位についたのだが、商鞅の変法を採用し、

その140 年後に秦始王(秦の始皇帝)が全国を統一することになる基礎を固めた。

 

柏楊は「中国人史綱」において商鞅の変法と明治維新とを同一視している。

二つの革新は2000 年ほど離れているが、いずれも一つの小国、弱国を短期間で強国にさせた。

 

なぜ秦孝公のような若いリーダーが秦国の富国強兵の土台を造ることができ、優れた組織改革をリードできたのか。

これは研究に値する。

 

組織のリーダーにとって一番重要な職責は何だろうか。

歴史をひも解くと、優れたリーダーは「西洋医学の医師」ではなく「漢方医」である。

つまり、「一部分を対象にして深く観察すること」や「ある技術を一つに集中すること」を行う代わりに、

「全体的な理念」を持つべきなのである。

その為にはリーダーは絶え間なく修行をしなければならない。

リーダーの主要な業務の一つは正しい戦略を策定することである。

 

戦略とリーダーの「個性」とは緊密に関連している。

戦略は「深謀遠慮式」と「即時反応式」(パブロフの条件反射実験と類似)の2 つに類型化される。

「深謀遠慮式」は戦略を立てる時に追求すべきスタンスであり、

バタフライ・モデルにおける戦略策定モデルの中核をなすものである。

 

しかし、多くの組織リーダーが知らないうちに「即時反応式」の罠に落ちて行く。

この顕著な例は戦国時代の楚懐王である。

楚懐王は大国のリーダーであったが、

何度も縦横家(=弁舌や策略に優れ、各国を行き来している人を表す言葉)である張儀に出し抜かれた。

 

その結果、楚懐王は囚人となり他国で死に、かつての戦国七雄の一つである楚国も没落するという結果となった。

(優れた才智の持ち主と思われる漢の高祖劉邦や魏武帝曹操も含め)

多くのリーダーが楚懐王のような「即時反応式」の行動をしばしばとったが、

成功したリーダーたちは最終的には「即時反応式」の罠から脱出し、

「他人の知恵」を利用しながら自身の不十分な戦略思想を補完していったのである。

バタフライ・モデル(四)「天、地、人」における総合的な観念

(四)「天、地、人」における総合的な観念

中国人が英雄的人物を叙述する際には「顶天立地」(天を支え地に立つ)という表現がしばしば使われる。

これは企業にとっても同様である。

 

「神、国家、コカコーラ」というタイトルの本には、コカコーラ社と全社員たちは同時に違う面で働いていると述べた。

「高尚な精神はプラトン式の精神を提唱する(=天)。

 

他方、揺るぎない実際の生活を仕事の標準にしている(=地)。」

西洋にはバタフライ・モデルのような考え方はないが、これも「天—地—人」構造の説明とまさに同じ考え方である。

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