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バタフライ・モデル:中国式の企業成長戦略(最終回)

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バタフライ・モデル:中国式の企業成長戦略(最終回)

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バタフライ・モデル:中国式の企業成長戦略(最終回)

■蝶の右翼部分:「時、信、資」の順番を沿って下へ移動する戦略方策モデル

戦略策定は大きな課題であり、その意思決定の主体はリーダーである。

ただし、すべてのリーダーが適格な意思決定者であるわけではない。

 

歴史的には、戦略策定の質は確かにリーダーの「個性」と密接に関連しているが、

「学習および経験の累積効果」は想定よりも小さいことが明らかになりつつある。

戦略策定の論理のスタートラインは「時間尺度」を正確に設定すること
(一)戦略策定の論理のスタートラインは「時間尺度」を正確に設定することにある

庄子の「逍遥游」に「小知は大知に及ばす、小年は大年に及ばず。

(知恵が少ないものは知恵の多いものには及ばない、生きる年数の短いものは長いものに及ばない)」という記述がある。

たとえば、朝に生まれ夜に消滅する朝菌は昼と夜の区別がわからない。

春に生まれて夏になくなる寒蝉は季節が四つあることを知らない。

 

これは「小年」である。

中国南部に500 年を一つの季節とする長寿の亀が存在する。

上古には8,000 年を一つの季節とする長寿の椿もある。

これは「大年」である。

一般的に人は長くても100 歳程度までしか生きることができない。

 

つまり人の「時間尺度」は庄子の「小年」と「大年」の間にあり、「中年」と呼ばれる。

何百年という長期の視点を持つ人や何百年にもわたって成功をおさめる人は、

自分の視野を「小年」から「中年」へ、さらに「大年」まで実際の体験を超えて開拓し、先取りし、実践する。

 

周王朝は800年間続いたと人は簡単に言うが、われわれは実際には800 年という長さを直接的には体験できず、

人が直接感知できる範囲を超えている。

 

われわれは80 キロメートル、800 キロメートル、8 時間、8 日、8 年、80 年は実感できるが、

800 年とはどのようなものか実感できないだろう。

<バタフライ・モデルには、「時」は「道、法、術」のそれぞれ三つのレベルに対応する「時間尺度」がある>

実例を見るとすると、秦国の年代記の例から大戦略時間に関する概念を理解することができる。

 

秦穆公(春秋五覇の一つ)の紀元前659 年から298 年が経過し、

秦孝公(商鞅の変法を採用)時代(紀元前361 年)になり、そしてさらに140 年が経過し、

秦始王が中国を統一した(紀元前221 年)例である。

西部の辺鄙な地方にあった秦国は800 の国を率いる主導的な国になった。

 

このような偉業を成し遂げたのは、秦が「道」を何百年間にもわたって作り上げてきたからである。

 

競争の規律に置いては、「自身を強くすること」と「相手を弱くすること」とは同じ効果がある。

自身を強くすることは革新することであり富国強兵をはかることである。

相手を弱くすることは戦争で相手の領地を奪うことである。

 

前者は「内向」「抱法」(法の設立)を、そして後者は「外向」「用術」(術の利用)を意味する。

前者の効果が表れるまでには数十年が必要となるが、後者は短期間で結果がでる。

その短期間は全体の歴史に照らし合わせると、ごくわずかな期間にすぎない。

 

劉邦、項羽の楚漢戦争は5 年間続いたが、朱元璋は15 年の期間をかけて国を統一、

そして呉越戦争は22 年も続いた。

「用術」で戦争を行うと同時に、「法」に対する重視度や実施水準は、

将来の事業が成功するかどうかにとって重要な指標である。

 

したがって、「立法」あるいは「変法」は必ず戦術を実施する時間内に考えておかなければならない。

戦術時間は一般的には極めて短く、「スピード」を強調する。

孫臏(そんびん)の「減竈計」(かまどを減らし弱いふりをして、敵を油断させる方策)はわずか数日の話である。

孟嘗君は賊に頼って函谷から逃げ出すのに2 時間しかかからなかった。

陽動作戦が成功するかどうかのキーワードはやはりスピードである。

 

しかし「術」を通じて獲得した競争優位性は短期的なものである。

趙の武霊王が軍事改革を通じて、「騎」という迅速に対応する新たな兵士を導入した。

 

しかしそれは趙国が強国になるまでの力とはならず、逆に武霊王の自身も内戦で亡くなった。

「信」は一票の否決権を持つ

(二)「信」は一票の否決権を持つ

「信」は精神的な力であり定量化することは困難であるが、極めて重要な組織要素の一つである。

ナポレオンが「戦争において精神と物質の比は3:1 である」と述べた。

蘇東坡は「上王帝書」において「神が存在するのは人の信仰においてだけである」と述べている。

 

「信」には「道、法、術」のそれぞれのレベルに対応する考え方がある。

<「術」のレベルにおいては、「信」は「信心」(自信)がポイントとなる>

自分に自信がない人、自信のない組織および自信のないチームは、

物質的資源をいくら豊富に保有していても、競争優位を獲得することは難しい。

 

紀元前204 年、韓信は「背水の陣」をしいた。それは自信を強化する極端なやり方だった。

特に寒信が率いた兵士は烏合の衆であったため、

逃げ道を断つことによって前に進ませることは唯一正しい方策と言っても過言ではない。

「法」のレベルにおいては、 「信」は「信用」がポイントになる
<「法」のレベルにおいては、 「信」は「信用」がポイントになる>

商鞅が変法を実施する時には必ず、 城門に木を立てそれを運んでくれる人に大金を与えると発言した。

つまり容易なことに大金を支払う約束を厳守したことで、世の中に信じられたのである。

燕の昭王は、人材を募集する前に必ず大金を払って駿馬の骨を購入し、本当に駿馬がほしいという意思を世の中に信じさせた。

 

これら二つの事例とも、小さいことから国の信用力を強化する例である。

 

紀元211 年、劉備が劉翔の誘いに応じて蜀国に入った。

劉備は蜀国の領地を非常にほしがっていたが、世の中からの信用を失いたくないので、 容易には行動できなかった。

劉備は政治家であり、政治家は「人心を得ること」は「戦争に勝つこと」より重要であることを知っている。

 

つまり劉備が蜀の領地を得て全国の三大勢力の一つになったのは、「厚黒学」で述べられているような要因ではないのである。

「道」のレベルにおいて、「信」は「信仰」や「信念」と位置付けられ、「信」の最高レベルの形態である
< 「道」のレベルにおいて、「信」は「信仰」や「信念」と位置付けられ、「信」の最高レベルの形態である>

現在の多数の大企業は、零細企業だった時から非常に大きなビジョンを掲げている。

それらの企業は尊大と思われていたかもしれないが、

そのような企業だからこそ会社のビジョンを実現することができたのである。

 

例えば、1886 年に アメリカのアトランタで設立されたコカコーラ社は、会社設立時には社員数はわずか30 人だった。

1899 年には15 名の社員は汽車を使ってコカコーラの営業を行っていた。

 

コカコーラ社は零細企業だったが、社員たちは「自分はコカコーラ人」であり特別な集団であると思っていた。

その社員たちが営業に出かける前に、会社の設立者であるアサ・キャンドラーは彼らに会社の信念を十分に注ぎ込んだ。

一時的に彼らを生産工場で働かせ、コカコーラの素晴らしさを理解させた。

 

アサ・キャンドラーはコカコーラの社員たちに「自分は最も偉大な会社の最も素晴らしい商品を営業している」と信じ込ませた。

従って、コカコーラの社員は「信仰の光」に励まされ、困難を一つ一つ乗り越えることができたのである。

資源統合の最高レベルは「全てを含めること」

(三)資源統合の最高レベルは「全てを含めること」である

組織方策の三つ目のポイントは自社の経営資源に対する評価である。

バタフライ・モデルにおいて「資」は主に資源の統合と管理を指す。

 

<資源は現実的なものである>

資源は様々な状況において制約条件となるものであり、戦略とある意味で同じ存在である。

すなわち、「資源が戦略を決める」のである。

いくらのコストに対していくらの商売をし、力を理解したうえで仕事をする。

資源は安っぽい情熱やロマンチシズムとは相反するものである。

 

例えば、紀元前226 年、若くて逞しい秦国の将軍李信が数千人の軍隊を率いて燕国の王子である丹を捕まえた。

秦始王は李信が優秀であり勇敢な人と認めた。

 

ある日秦始王が「私は楚国を自分の領地にしたいが、何人の軍隊が必要になるか」と李信に尋ねた。

李信は「20 万人以下です」と答えた。

秦始王は老将軍である王翦(おうせん)にも同じ質問をした。

王翦は「少なくとも60 万人の軍隊が必要です」と答えた。

 

その時、秦始王は王翦を「王将軍は本当に年を取った。臆病になった。」と評した。

 

その後、秦始王は李信を任用し楚国へ出兵した。

李信は幾つかの小さな勝利を収めた後に、負け続けて秦国に帰って来た。

秦始王は再び王翦に相談した。

 

王翦は60 万人の軍隊がなければ勝てないと終始強調し、秦始王はその主張に応じなければならなかった。

結局、王翦は楚国を占領した。

別の例としては、第二次世界大戦時に、たとえば日本は「神風決死隊」と「不投降主義」を掲げていたが、

豊富な資源と生産力に優位性を持っているアメリカに敗れた。

資源統合の三種類の考え方とレベル
<資源統合の三種類の考え方とレベル:大括弧・中括弧・小括弧>

異なる視点から見ると、戦略とは「どのような資源を統合すべきか」「資源をどのように統合すべきか」を決めるものである。

バタフライ・モデルでは、組織が資源を統合すること関して次の三つのレベルに分けている。

 

中国に伝わる知識において、資源を統合する最も上位の考え方は「全てを含めること」である。

 

「荀子」は「小さな川がなければ海にならない」と述べている。なぜ海は地球上で一番大きいのか。

荀子によるとその原因は小さな川の水の流入を遮らないからである。

毛沢東主席も「団結できる力を全部団結する」という原則を提示した。

 

日中戦争の時に、北京、上海、南京、武漢が次々と陥落した状況に対して、

「日本の侵略軍を『人民戦争の見渡す限りの海原』に溺死させろ」と提言した。

 

正規軍がここでいう小括弧であり、中国の地方民団やゲリラ隊が中括弧に相当し、全ての「人民」が真の大括弧である。

正規軍のみ参加する戦争は「部分的な抗戦」であり、全人民が参加する戦争だからこそ「全面的な抗戦」となる。

資源統合と全体の成長戦略との関連
<どのような考え方を活用して資源を統合するかは全体の成長戦略と関連している>
(「成長」と「方策」の相互作用)>

大括弧の考え方を用いて資源を統合・活用する時には、時間尺度は必ず大戦略時間に設定し、

「信」に関しては信仰/信念の観点から戦略を考える。

中括弧の考え方を用いて資源を統合・活用するならば、戦略時間を正確に把握し、信については信用のレベルとなる。

最後に、小括弧の考え方を用いて資源を統合・活用するならば、時間は短時間であり、

自信と勇気を燃え立たせることで信を築くのである。

 

三種類の資源統合の考え方の違いは、統合の「広さ」だけではなく、「深さ」にも関係している。

組織の中核資源である「人」の活用に関して考えてみよう。

 

「術」のレベルにおいて人を統合・活用するのであれば、

その人たちのそれぞれの才能を見極めたうえで利用することでいいし、

それぞれの人を同じように利用してもいいし、

きたない手段を使ってその人の持っている最大の力をださせてもいい。

要するに目的を達成すれば何でもいいのである。

 

「法」のレベルにおいて人を活用する場合は、より長い時間の戦略目標の実現から考えなければならない。

 

そうすると、人材の選抜、育成、賞罰等の体系の構築が重要となり、人の信用がキーワードとなる。

「道」のレベルにおいて人を活用する場合、次世代の人が大戦略に適合するかどうかを考えなければならなくなる。

それは人材教育に多いに依存する。

この教育には、知識を伝授することだけにとどまらず、信念の構築も含まれている。

資源活用の最高レベルは「弱が強に勝ち、少は多に勝つ」
<資源活用の最高レベルは「弱が強に勝ち、少は多に勝つ」である>

資源は競争に勝つための必要条件であるが、十分条件ではない。

もしそうでないならば、官渡の戦における袁紹や、

淝水の戦いにおける苻堅が絶対的な優位性を持っていたにもかかわらず戦いに負けたことを

説明することができない。

 

資源の柔軟性は資源のダイナミックな活用にある。

ダイナミックな資源の活用が効率を生みだし、ある時空間に比較優位を形成する。

資源のダイナミックな活用がなければ、歴史上「弱が強に勝ち、少は多に勝つ」例もないだろう。

資源に関して不利な立場にある場合は、

毛主席のいう「優秀な兵士を集め殲滅戦を戦う」「小さな勝利を累積したら大きな勝利になる」という

戦略原則がほぼ唯一の選択肢となる。

 

ブレジンスキーも著書である「The Choice: Global Domination or Global Leadership 」において、

9・11 事件に関して「弱者は恨みを焦点化すると強くなるが、

強者が状況に応じず同じ行動を取りつつけるなら弱くなる。」と述べている。

バタフライ・モデルの「戦略方策モデル」に関するまとめ
<バタフライ・モデルの「戦略方策モデル」に関するまとめ>

組織のリーダーは方策を立てる際に、まずは時間尺度を正確に設定することが必要である。

第二に、組織の「信」を客観的に評価すること。

 

「道」のレベルにおいて方策を立てる場合、われわれの組織に信念があるかどうかということを考えなければならない。

「法」のレベルにおいて方策を立てる場合、我々の組織には信用があるかどうかを考えなければならない。

「術」のレベルにおいて方策を立てるなら、我々の組織に自信があるかどうかを考えなければならない。

 

他の戦略方策の要素が優れていたとしても、「信」の指数が標準より低い場合には当該方策は実行不可能である。

 

「信」の指数が基準を満たしていると判断できる場合には、

戦略を立てる次のステップは組織が持つ資源の合理的な評価に関することである。

組織が保有する資源は、現在保有する資源を統合する考え方とその方法に依存する。

 

「道」のレベルにおいて方策を立てるなら、「大括弧の考え方」の方針に基づいて資源を蓄積しなければならない。

「法」のレベルにおいて方策を立てるなら、「中括弧の考え方」の方針を基づいて細かい作業をしなければならない。

「術」のレベルにおいて方策を立てるなら、「小括弧の考え方」の方針に基づいて弾力的に対応しなければならない。

 

このように「方策」と「成長」は別々ではなく、表裏一体なのである。

最後に、資源をどこまで柔軟に運用できるかが戦略方策を入り乱れて見分けがつかないようにさせる。

 

それはリーダーの個性、精神力及び度胸と密接に関係している。

歴史が小説家が書く虚構より素晴らしく思えるのはそのためである。

バタフライ・モデルの横方向に見た場合
■バタフライ・モデルの横方向に見た場合

 

バタフライ・モデルの上のライン:バタフライ・モデルの一番上のラインは「天道」と「天時」からなる。

最強の意志と精神力が存在する。

バタフライ・モデルの下のライン:「地」、「資」、「術」は同じレベルにある。

 

これらはより理性的なものであり、方策を立てる前に組織が蓄えている力を表すものである。

人間性の平衡木(訳注:左右のバランスが取れた偏りのない木構造):

「人」、「法」、「信」は真ん中のレベルにあり、人間性の平衡木を構成する。

 

「法」は組織の管理、組織の変革を指し、「信」は自信、信用、信仰を指す。

「法」は人の理性に焦点をあてており、「信」は人の感情が焦点となる。

 

「法」は人間性の「悪」を対象とし、「信」は人間性の「善」を対象とする。

太極が天地を生み、陰陽は一つとなり、始まりは万全となるのである。

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