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資金調 達プロジェクトのデザイン:戦略と IPO の二つの視点から

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資金調 達プロジェクトのデザイン:戦略と IPO の二つの視点から

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資金調達プロジェクトのデザイン

資金調達プロジェクトのデザインは、企業がIPOを進める過程で重要なプロセスである。

 

企業にとって資金調達プロジェクトは、将来の発展のためのエンジンとも言え、

上場による資金調達プロジェクトのフィージビリティスタディによって、企業の成功いかんが決まる。

 

また出資者も企業の資金調達プロジェクトに基づいてその企業の投資価値と成長性を判断することから、

資金調達プロジェクトをどうデザインするかは企業の上場の成否と将来の発展に関わる重要命題であると言える。

 

ここでは戦略とIPOという二つの視点から、その実際のデザインについて分析する。

文/蔡春華

資金調達に二重の注意が必要となることの本質的原因

一、情報の非対称性

―資金調達プロジェクトに二重の注意が必要となることの本質的原因

 

情報の非対称性とは、アメリカの経済学者であるアカロフ、スペンス、スティグリッツの3人が共同研究し

まとめた有名な経済学の理論であり、3人はこれにより2001年ノーベル経済学賞を受賞した。

 

これは、市場経済活動において関連情報に対する理解に相違がある場合、

情報をよりよく把握している者が比較的有利な立場になり、

情報が不足している者は逆に比較的不利な立場になる傾向にあるという理論である。

資金調達プロジェクトは、その本質の上で企業の発展戦略の一部分であり、

企業が外部環境、内在的条件、競争状況などの要素に基づいて策定する戦略措置である。

 

この角度から言えば、業界外の証券発行審査委員会が資金調達プロジェクトの可否を裁決することは

必ずしも理に敵ってはおらず、疑義を招き得る。

証券発行審査委員の代表者としても業界や企業の無数の出資者のことをよく理解していないために、

どうしても慎重にならざるを得ない。

 

また、証券監督管理委員会による情報開示要求はすでにかなり厳しく詳細なものではあるものの、

企業のもつすべての資源、なかでも企業家の実務経験、情報入手経路、人脈といった

目に見えない競争力を、目論見書に完全に反映させることは難しい。

 

つまり、企業家と出資者は情報面で対等な立場にはなく、

出資者が企業の全情報を把握しきることはできない。

 

このように、証券発行審査委員会では限られた書面資料と上場審査委員会での簡単な意思疎通を通じてしか、

資金調達プロジェクトのリスクを評価し、その実行可能性を判断することができないが、

長年の評価実務を通じて証券発行審査委員会には一定の既成観念が形成されており、

これが「ゲームのルール」であるとも言える。

 

したがって、企業がIPO審査をスムーズに通過するためには、

資金調達プロジェクトが企業の発展戦略にきちんと合致していること以外に、

さらに監督管理部門の「ゲームのルール」も守っていくことが必要になる。

 

一言で言うなら、資金調達プロジェクトのデザインには、

会社の戦略との合致とIPO規則との合致という二つの視点が備わっている必要がある。

中国での調達資金の運用に関する注意点

二、「調達資金の運用」について証券発行審査委員会で特に注意される点

中国の増量発行モデルの下では、国内でIPOを予定している企業の場合、

将来の発展と業績成長は主に資金調達プロジェクトの実施に依存することになる。

したがって、証券発行審査の実務では、資金調達のデザインが適切であるかどうかが一つの重点となる。

通常、証券発行審査委員会は以下の各点に特に注意している。

中国でのIPO不承認例の分析

三、2010年中のIPO不承認例の分析

1.珠海元盛電子科技股份有限公司

不承認の原因:資金調達プロジェクトの生産能力利用率が低く、

固定資産の整合性が不足していたため同社の主力製品の生産能力利用率は数年間にわたって90%に至らず低いままで、

同社の生産能力消化にマイナスの影響を与えており、具体的には以下のとおりであった。

 

同社で当時資金を調達しようとしたのは、

多層フレキシブル基板と表面実装の生産拡大と精密フレックスリジッド基板のプロジェクト投資のためであり、

生産拡大は10万平方メートル、生産拡大率は40%、建設期間は12か月であった。

しかし同社の業界予測データでは年間平均成長率は15%に満たず、

生産能力が予想どおりに消化されるかどうかという点には疑問が残った。

 

また資金調達プロジェクトと固定資産との整合性についても、

資金調達プロジェクトの単位あたり消耗固定資産がそれまでのプロジェクトの2倍に設定されるという、

非常に不合理な点があった。

こうした不合理が、資金調達プロジェクトを無理にひねり出して資金を調達しようとするものではないかと疑われた。

 

2.江蘇裕興薄膜科技股份有限公司

不承認の原因:資金調達プロジェクトに比較的大きな経営リスクが存在し、

「業務と技術」の生産能力拡張予測がつりあわなかったため同社ではこの調達資金を、

年間生産量1.5万トンになるハイエンド中厚規格BOPETフィルムの生産ライン建設プロジェクトに

当てるよう予定していた。

 

証券発行審査委員会は、この調達資金の投資プロジェクトは不確定性のある重要顧客に過度に依存するものであり、

今後の市場発展には不確定性が存在すると判断した。

 

また同社の既存の主要製品であったシークインポリエステルフィルム、電気絶縁用特殊フィルム、

カード保護用ポリエステルフィルム、タッチパネルフィルムなどはすべて市場シェアが20%以上であったところ、

プロジェクトによる生産能力拡張率は75%とされ、これは業界の成長率予測をはるかに上回っていたことから、

マーケティングの経路や管理の整合性の面で強化が図られなければ、

資金調達プロジェクトの市場経営リスクは非常に高くなると見なされた。

中国でのIPO不承認の事例紹介
3.杭州先臨三維科技股份有限公司

不承認の原因:資金調達プロジェクトの生産拡大規模ともとの固定資産との相違が大きすぎたため

固定資産の追加が約5,018万元と予定され、

2009年12月31日時点の固定資産の312万元から大幅に引き上げられていた。

 

10年間で減価償却されると仮定した場合、

毎年の減価償却費用は500万元で同社の利益に対して30%近くになり、

利益が少ない場合には、

新たに追加される固定資産投資と無形資産の償却分を補うことが難しくなると判断された。

 

 

4.広東冠昊生物科技股份有限公司

不承認の原因:資金調達プロジェクトに不確定性が存在したためこの資金調達プロジェクトには、

新製品の研究開発プロジェクトが2件含まれていた。

 

再生医学分野で発行者に大きな飛躍があったとしても、報告期間中はなお収入の中心であるバイオタイプ硬膜修復パッチが中心であり、同製品は上場前の2009年度まで収入の92.35%を占めていた。

 

また2製品がまだ育成段階であったことからも、

開発支出の資本化に対する同社の性急さが裏打ちされた。

研究開発プロジェクトのほとんどが最終的に失敗に終わり、成功に至ったのはほんのわずかであった。

 

こうしたことから、研究開発目標が予期のとおりに実現されるかどうか、

また製品の登録証を同社が予定どおりに取得できるかどうかには不確定性が存在し、

新製品を市場に投入して一定規模で販売することにはなお時間が必要であって、

利益を得られる見通しが立たないと判断された。

資金調達プロジェクトが生産許可を取得していなかった事例
5.北京博暉創新光電技術股份有限公司

不承認の原因:資金調達プロジェクトが生産許可を取得していなかったため目論見書では、

同社の資金調達プロジェクトによって予定生産量に達した後には、

「腸複数ウィルス免疫蛍光測定システム」検査器500台分とセット試薬500万本分の生産能力が拡大され、

同社の新製品である免疫蛍光測定装置は2010年3月には登録が完了して市場発売に入るとされていた。

 

しかし対応する試薬カードの登録許可取得は2010年下半期になる見込みであって、

プロジェクトの実施条件が備わっていなかった。

このほか、経営モデルは会社の営利能力と発展持続に直接影響を及ぼすことから、

初めて上場する企業には、調達資金を運用して経営モデルを変更することは通常認められていない。

 

その典型的な例が2009年に不承認となった「同済同捷」である。

この例では発行者は一貫してスポーツカーの設計業務に携わり、

それまでスポーツカーの製造に関わったことがなかったところ、

同業種の製造企業を高額で買収して増資し、

関連製品の製造販売を行うことで経営モデルを大幅に変えた。

 

これについて証券発行審査委員会は、

発行者が営利能力を持続していくことには著しい不確定性が存在すると認め、

また発行者が過半もの出資資金を利用してその製造企業を買収しようとすることには、

財務上の重大なリスクが存在すると判断した。(第2回に続く)

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